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名古屋地方裁判所 昭和31年(行)11号 判決 1963年2月23日

名古屋市中区鶴重町四丁目一四番地

原告

三好興業株式会社

右代表者代表取締役

市川みね

右訴訟代理人弁護士

宇野俊保

同市中区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋中税務署長

杉田梅松

右指定代理人

天池武文

高橋政一

林倫正

青木恒雄

駒田三男

右当事者間の昭和三一年(行)第一一号法人税等更正決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告訴訟代理人は

1  被告が原告に対して昭和三〇年三月三一日附をもつてなした原告の昭和二九年三月一日から同年八月三一日に至る事業年度の法人税についての決定処分及び無申告加算税徴収処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

二、被告代理人らは主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

1  原告は不動産業を営む会社であるが、被告は昭和三〇年三月三一日附で原告の昭和二九年三月一日から同年八月三一日に至る事業年度の法人税につき所得金額を二一三、二〇〇円、右に対する法人税額を八九、五四〇円とする旨の決定処分並びに無申告加算税二二、二五〇円の徴収処分をなし、その通知は昭和三〇年四月九日に原告に送達された。

2  しかし、原告は右事業年度においては所得がなかつたものであるから、右の処分には所得金額を誤つて認定した違法がある。原告の右年度における損益計算は次とおりであつて、原告は納付すべき法人税がない旨の確定申告をした。

益金 賃貸料 三〇〇、〇〇〇円

損金 給料手当 一二〇、〇〇〇円

租税公課 一八、四一一円

火災保険料 二六、二七一円

修繕費 一一〇、五〇〇円

支払利息 三三、七五〇円

当期損失金 八、九三二円

しかるに被告が前記のような決定をなしたのは、右損金の内給料手当一二万円(原告会社の当時の事務員市川交一に対する給料の支払)及び修繕費一一〇、五〇〇円(原告所有の中区鶴重町四丁目一四番地所在建物木造二階建店舗の土台取替等の修繕費として工事請負人池崎敏雄に支払)を被告において否認したことによるものである。

3  仮に右の支出が認められないとしても、原告は青色申告書提出の承認を得ている会社であつて確定申告をなしたものであるから、前五年内の欠損金の繰越控除を受け得べきところ原告には前事業年度から金二一五、六六〇円の繰越損金がありその控除により本件事業年度には結局所得がなかつたこととなる。従つて右控除をなさずに所得額を認定してなした本件処分は違法である。右青色申告書提出の承認は被告によつて昭和三〇年三月三〇日附で一旦取消されたが、その取消処分は原告のなした再調査請求(期間経過により審査請求と看做された。)の結果名古屋国税局長によつて昭和三一年三月一五日に取消され、青色申告書提出の承認が復活したものである。仮に原告が本件事業年度の法人税について確定申告をなした事実が認められないとしても、原告には前述の如く所得がなかつたので申告を要しなかつたのであり、被告が前述の如く支出を否認した結果申告義務が生じたが、その時は既に申告期限後であつたうえ、被告の違法な処分によつて原告の青色申告承認が取消されている時であつたので、確定申告をなし得なかつたのであつて、右の如き事情にある以上青色申告承認による繰越控除を受け得ると解すべきである。

二、被告代理人らは答弁として次のとおり述べた。

1  原告主張の事実中1の事実及び原告はその主張の如き経緯を辿つて再び青色申告書の提出を承認された法人となつたことは認めるが、その余の事実を否認する。欠損のため納付すべき法人税のない場合でも確定申告をなすことを要するものであり、本件係争事業年度の法人税の確定申告期限は昭和二九年一〇月三一日であつたから、被告のなした青色申告書提出承認の取消処分が妨げとなる筈もなく、原告は確定申告を怠つたものである。なお、原告はその前年度の法人税についても確定申告を怠つており、その点からも繰越控除は認められらい。

2  原告は本件係争事業年度の法人税につき確定申告書を提出しなかつたので、被告は法人税法第三〇条により調査の結果次の事実を基礎として本件処分をなしたのである。原告は同族会社であり財産保全のためのいわゆる保全会社として訴外三星実業株式会社に対して原告がその修繕費を支出した旨主張しているものであり、その契約によれば原告は右訴外会社から毎月五〇、〇〇円の賃貸料の支払を受けること、又右訴外会社は自己の営業に必要な右建物についての造作修理等の一切の経費を負担することとなつており現に右訴外会社は右建物を使用して営業を継続している。従つて原告には右契約により当然に賃貸料債権が発生しているが、原告は被告に対して昭和二九年三月八日に休業届を提出し、係争事業年度について法人税確定申告書を提出しないものであるから、右訴外会社に対して用益贈与をなしたものと認定される。しかし、右用益贈与を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となるので、被告は法人税法第三一条の三により右を否認し、本件係争年度における賃貸料収入三〇万円を認定した。他方右年度内の原告の負担に帰すべき損失は次のとおりであつた。

固定資産税 一五、〇〇〇円

支払利息 三三、七五〇円

未納事業税 三〇、七四〇円

未納利子税 五、二六四円

減価償却費 二、〇三四円

従つて原告の本件係争年度における所得は二一三、二一二円となり、その旨認定してなした本件処分には何ら違法がない。

3  原告は昭和三〇年五月二〇日に至つてはじめて右決定処分に対する再調査請求の資料として本件係争年度の損益が原告主張の如きである旨の内容の決算報告書を被告に提出したが、右決算報告書は被告から所得金額を決定された後に作成されたもので、その内容を信頼出来ないうえ、その収支いずれも未収入、未払であつて、係争年度内に現金の受入、支払等異動が全くなかつたことを示しており、そのような経理は社会通念上特殊な事情でもない限り考えられない。原告の主張する訴外市川交一に対する給料支出が係争年度内に確定していなかつたことは原告が給与支払報告書を所轄区長に提出していないこと、右市川交一は当該年度内に訴外有限会社四八十からも給与の支給を受けていたが、確定申告をなしていないこと、同人の市民税課標準にも算入されていないこと等からも明らかであり、仮に後に至つて支払を確定したとしても、係争年度の損金としては認められないものである。また原告主張の修繕費は前記訴外三星実業株式会社において支払い、同会社が決算上損金に計上しており原告の損金とすべき理由はない。

第三、証拠関係

一、原告(代理人)

甲第一乃至第一七号証を提出し、証人市川交一及び同市川昌二の各証言を援用し、乙号各証の成立をいずれも認めると述べた。

二、被告(代理人)

乙第一号証の一乃至三、同第二号証、同第三及び第四号証の各一、二、同第五乃至第一〇号証、同第一一号証の一乃至四を提出し、証人岩瀬政治の証言を援用し、甲号各証の成立をいずれも認めると述べた。

理由

一、原告がその主張の如き事業を営む会社であり、被告は昭和三〇年三月三一日附で原告の昭和二九年三月一日から同年八月三一日に至る事業年度の法人税について所得金額を二一三、二〇〇円、法人税額八九、五四〇円とする旨の決定処分及び右についての無申告加算税二二、二五〇円の賦課処分をなし、その通知が昭和三〇年四月九日原告に送達されたことは当事者間に争いがない。

二、原告は右の処分について所得金額の認定の違法を主張するので、まず原告の右事業年度における損益について判断するに、証人市川交一及び同市川昌二の各証言(後記措信しない部分を除く。)並びに成立に争いのない乙第八号証によれば、原告は本件係争年度当時訴外市川交一が代表取締役として原告所有建物を同人の弟訴外市川昌二が代表取締役であり、右交一も一部の経営責任者として関係してキヤバレーを経営している訴外三星実業株式会社に賃貸して右訴外会社から一箇月五万円の賃料を受けていた事実が認められ、従つて原告は本件係争年度内に賃料収入三〇万円の益金を有していたものと認められる。他方損金としては、支払利息三三、七五〇円の存したことは当事者間に争いがなく、また損金に計上すべき固定資産税一五、〇〇〇円、未納事業税三〇、七四〇円、未納利子税五、二六四円、及び減価償却費二、〇三四円の存したことは被告の自認し、弁論の経過によれば原告はこれを援用する趣旨と解されるところである。原告は右のほか更に給料手当一二万円、修繕費一一〇、五〇〇円、及び火災保険料二六、二七一円の損金支出を主張し、成立に争いのない甲第六、第七号証、乙第四号証の一、二には右主張に符合する記載があるが、右各証は原告の作成した賃借対照表及び損益計算書であつて右に記載されている事実をもつて直ちに原告主張の支出ありとは認め難く、また証人市川交一及び同市川昌二の各証言中原告の主張に合致する部分は成立に争いのない乙第一号証の三及び乙第五号証に照しにわかに措信しえず、原告主張の修繕費の支出に符合する成立に争いのない乙第一一号証の三、四は同様成立に争いのない乙第九号証によれば訴外池崎敏雄が訴外市川昌二の一括しての依頼によつてなした訴外三星実業株式会社の営業のための改装工事及び建物の修繕工事の費用につき、昭和二九年夏頃に右昌二の依頼によつて各異なる日付で原告宛に作成した請求書のうちの一部であること明らかであるので、右乙第一一号証の三、四により原告が右修繕費を支払つた事実を認め難く、その他原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。却つて前記乙第九号証によれば右費用については訴外三星実業株式会社が右池崎に対して有していた飲食代金等の債権と相殺のうえ残額を支払つていることが認められ、前掲乙第一号証の三及び乙第五号証によれば、原告は訴外市川交一に対して給料を支払つていなかつたものと認められるのである。従つて原告の本件事業年度における所得は一応前記益金三〇万円から損金合計八六、七八八円を除いた二一三、二〇〇円(百円未満切捨)であると認められる。

三、次に原告の繰越控除を受くべき旨の主張について判断するに原告が青色申告書提出を承認された会社であることは当事者間に争いがないが、原告が本件係争事業年度の法人税について確定申告書を提出した事実は証人市川昌二の証言中これに符合する部分は措信し得ず、その他右事実を認定するに足る証拠はない。却つて成立に争いのない乙第一号証の二及び三によれば原告は被告に対し休業する旨を届出て右確定申告書は提出しなかつたのではないかと疑われる。納付すべき法人税のない場合にも確定申告書を提出すべきことは法の要求するところであり、青色申告書提出を承認された法人が前五箇年内の損失の繰越控除を受け得るのは、青色申告書を提出した場合に限られるものであるから、原告が確定申告書を提出した事実の認められない以上、その余の点につき判断する迄もなく、原告はその主張の如き控除を受け得ないものといわざるを得ない。

第四、以上の理由により被告が原告の本件係争年度における法人税の課税標準たる所得金額を金二一三、二〇〇円と確定した点に違法はなく、また原告が確定申告書を提出した事実が認められない以上、格別の事情の認められない本件では無申告につき正当の事由が存したものとは認められないから被告のなした無申告加算税の賦課処分は適法と解され、その他本件処分について違法の点は認められないから、結局本件処分は取消さるべき理由がないものである。従つて原告の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 外池泰治 裁判官 白石寿美江)

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